2012年02月27日

春近し、未だ知らぬ想い2

遅くなりましたが、続きをupです。

会話がほとんど無いですけど……
次はきっと会話多めになるかもしれません。

では、ドウゾ。









――それは恐ろしい物語よ キスを待ち続け眠るなんて




思いがけずにふたりになっちゃったなぁ……

いつものように窓のそばに立ち、帰っていく蓉子たちを見下ろしながら苦く笑った。
夕暮れの、赤から紫……そして群青へと変わっていく空に、いちばん星と呼ばれる星が光っている。
いくら見積もっても、リミット的に許される時間はあと30分って位だろう。
テーブルに、腕を枕にして眠っている祐巳ちゃんを起こさなくてはならない時間は、もうすぐにやってくる。
すうすうという規則的な寝息が可愛らしくて、起こすのが可哀相だとは思うけれど、致し方ない。

「……いくらマリア様に守られているらしいリリアンとは云え、あまり遅くあるのも不味かろう」

まあ私的には守られているのではなくて、監視されている気がしてならないのだけれどね。
正門と裏門の分岐点に立つ、それはそれは綺麗で真っ白なマリア様の像。
このリリアン女学園に通う子羊たちが道を踏み外す事の無いように監視し、そして値踏みしている……そんな風にしか思えないのは、来月には高等部を卒業するという今になっても変えようも無いようだ。
さすがにこんな風な自分が苦しくて、何故マリア様はこんな自分こそを罰するなり救うなりしてくれないのかと考えた事もあった。
そんな時に出逢った栞は、今はここには居ない。
それでも今、こうして笑う事が出来るようになったのは、この薔薇の館の……山百合会の存在は大きいのだろう。
あの時、今は外部大学へと進学されてしまったお姉さまと蓉子がいて……引継ぎの為と目まぐるしく動いていたから、だからこそ冷静になる事も出来たのだろう。
そしてお姉さまと入れ違いになるように祐巳ちゃんや志摩子が中等部から高等部へとあがってきた。
志摩子と春に出逢って、秋の学園祭の少し前に姉妹(スール)になり、そしてそれから少し後の学園祭の準備期間中に祐巳ちゃんと出逢った。
出逢うのが早くても遅くてもいけなくて、志摩子が妹になった後の、学園祭準備のあの時が最適だったに違いない。
そして、その後に起きた『いばらの森』騒動があった事すらも、必然だったんだろう。

しかし、あの『いばらの森』を書いた作家はうまい表現を使ったものだと思う。
自らを中心にして囲う茨。
半身とも云って良いほど愛しい少女を失い、白い茨の森に己の心を閉じ込めてしまおうという主人公は、あまりに私に似ていた……否、似過ぎていた。
正直、笑うしかないくらいに。
栞と出会い、傾倒して周りが見えなくなって……叶うなら、ずっと一緒にいたいと……ひとつに解け合ってしまいたいと思っていた栞を、結局は失ってしまった私と。
何事にも興味を持つ事の無かった私が初めて欲し、そして与えられた事を神に感謝した唯一無二と思った存在だったのに、その倖せはたった8ヶ月で失せてしまった。
その事を万が一慰められでもしたら、間違いなく反発しただろう。
けれど私の扱いを完全に熟知していたお姉さまも蓉子も、「山百合会の仕事の引き継ぎだ」と忙しく引っぱり回した。
結果的にその忙しさが私の心に静寂と、栞があの日、私に会わずに去ってしまった意味を理解出来る時間をくれた。
それが解かったから、だからこそ由乃ちゃんから栞に会いたいかを訊かれた時、すんなりと躊躇なく「会わない方がいいから」という言葉が口をついて出たのだと思う。
会ってはいけないんだと思った。
またあんな風に周りが見えなくなって、この両手は栞を求めてしまうだろうと思ったから。

こんな私だからこそ、誰かを好きになる事は無いだろうと……好きになれるはずは無いと、そう思っていたのに。
誰かに云えば、莫迦な事と笑われるかもしれない。
それでも私は、栞の様に誰かを愛しく思えるとは到底思えなかった。
……栞が私の前から消えて、たったの1年くらいで。


そっと、まるで壊れ物にでも触れるかの様に、ツインテールの先に触れる。
それだけでもドキドキと音を立てて走り出す、正直な心臓。
スキンシップと称して日々後ろから羽交い絞めなんて事をしているクセにと、多分誰にも信じてもらえないだろうけれど。
こんな風に誰もいない部屋で、秘め事の様にそっと髪先に触れる事の方が、正直緊張する。
しかも触れている子は安らかな寝息を立てていて、まるで悪戯をしている様で後ろめたい気持ちにすらなる。
ふたつ年下の後輩が、誰も知らない今の私の弱点になっていた。
他人に触れるのも、触れられるのも苦手な私が、祐巳ちゃんには触れたいと思う。
そして、触れられたいとも……思う。
出逢って間もない頃に、その手を取ってダンスの真似事をした事があった。
全く意識する事なくその手を取っていた私に、蓉子が珍しげに視線を向けていた事で、そこで初めて自分の行動の奇異さに気付かされた。
髪先に触れられる事にすら嫌悪し鳥肌を立てていた私が、自分から祐巳ちゃんの手を取って、あまつさえダンスの真似事をした……それは本当に不思議な事だったからだ。
それからの私は周知の通り、過剰とも云えるスキンシップを祐巳ちゃんに計ってきた。
もちろん、それは祐巳ちゃんのスールである祥子をやきもきさせてやろうという意図があった。
それと同時に、多分自分自身でも何かを確かめたかったんじゃないだろうかと、今は思う。

栞と離れて、1年。
もう誰も好きにならない、なれるワケが無い……そう思っていた私が、いつの間にか恋をしていた。
ふたつ年下の、祐巳ちゃんに。
栞に似ているワケじゃない。
もちろん栞と比べるなんて失礼な事はしていない。
祐巳ちゃんは、祐巳ちゃんだから。
くるくると回る様に変わる表情とか、ちょっと天然だとか、その割に弟がいる所為かお姉さん気質な所があるとか、思いがけず頑固な所だとか……
きっと惹かれたのはいろいろな部分にだ。
最初は、純粋な興味だったのにね。

だけど。
多分この想いは告げる事も気付かれる事も無いだろう。
祐巳ちゃんには、大切なものがキチンとある。
だから、私の想いは届かない、気付かれない。

『ロサ・ギガンティアはもうすぐ卒業しちゃう。そうしたら、どうしよう』

そんな可愛くて嬉しい……そして残酷でズルい言葉。
あくまで私は頼りになるちょっとスキンシップ過剰な気の合うセンパイでいなくてはいけないのだ。
それ以上は、望まれていない。
けれど、栞を失った私は、こうも考えてしまう。
もし、想いを告げて、この数ヶ月で築かれた信頼感やらなにやらを失ってしまったら?と。
女子校ならでは擬似恋愛と軽く流される事の恐怖もあった。
そんな事を云う子ではない、そう思いながらも……怖い。
それと同時に、苦しめてしまうのではないか、とも考える。
私の想いを知ったら、悩んで苦しめるのではないかと。

だから、告げない。
出来る限り気付かせない。

……そう思っているのに、この想いは気付かれる日が来るのを待ちわびる。

茨に囲われたその中で、自分を呼び覚ましてくれる自分だけの“誰か”を待ちわびて眠り続ける姫の物語。
幼い頃に読んで、『何て怖い物語なんだろう』と思った。
魔女のかけた糸紡ぎの錘の呪いの所為で、15歳で100年の眠りについた姫。
幾人もの王子が、100年の合間に茨に囲まれた城へ挑みながらも敵わず死んでいく。
そして100年目に現れた王子が、なんなく茨を乗り越えて姫の元にたどり着き、姫を目覚めさせてめでたしめでたし。
自分の力を過信して茨の森に挑んで死んでいく王子。
ただ『100年目』だったというだけで難なく茨を突破して姫までたどり着いてしまう王子。
自分を目覚めさせる為に幾人もの王子が死んでいる事を知らずに、100年目に訪れた王子をたったひとりの自分の王子だと思い、恋に落ちてしまう姫。
滑稽で、恐ろしい物語。

そう思っていた。
なのに今、私は考える。
白い茨の森をなんなく越えて、完全に私の心を捕らえてくれたらいい。
罪かもしれない。
それでも構わないと、私の手を取ってくれたなら……と。



そんな私の気持など、気付かずに眠る祐巳ちゃんの髪を指から滑らせると、その柔らかい頬にちょん、と指で突いてみる。
……まったく反応なし。
いっそ清々しくなるその寝顔に、どうしようもない愛しさと憎らしさを感じつつ、タイムリミットを感じて寝息を立てている鼻をきゅっと摘まんだ。

「おーきろーコラー」
「ふがっ!?」

驚いたように目を覚まし、こちらを見る祐巳ちゃんに思わず笑いがこぼれる。
周囲に誰もいない事に気がついて、物凄い勢いで謝る祐巳ちゃんに「気にしなくていいよ」と笑いながら、どこか後ろめたい気持ちになりながら、いつも通りの“気安くてちょっと激しいスキンシップの先輩”の仮面を被った。




To be continued?


高岡早紀「眠れぬ森の美女」

20120217
posted by 松島深冬 at 10:47| 北海道 ☔| Comment(2) | マリア様がみてる SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
最近更新停滞気味で少し残念です
サイトが再びopenするのと更新を楽しみに待ってます
続き気になる…
主様の聖祐巳熱が冷めないことをマリア様に祈ってますね!
Posted by 寧々 at 2012年09月12日 17:17
すみません!
コメントを戴いたら来るはずのメールが届いておらず、今頃コメントに気付きました!
最近はpixivの方にSSを上げているので、ここはお知らせに使う事が多くなってしまって…
このSSの続きも今執筆中ですが、先の1話と共にpixivにUPすると思います。
よろしければ、pixivの方を覗いてみて戴けると嬉しいです。
無料登録が必要なのですが…
Posted by 寧々さま/松島深冬 at 2013年01月22日 23:10
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