2006年04月22日

心の中の死角・3

遅くなってしまいましたが、続きです。
次で終わるかなぁ…(苦笑)

よろしければもう少しお付き合い下さい。

ではドウゾ。



 §



「プレゼントって、その人の事を考えて、喜んでほしいって思いながらするものだって思います!」
「祐巳ちゃん…」

まっすぐに私を見て、まっすぐに言葉をぶつけてくる。
…以前はこんな風に自分の気持ちをぶつけられずに、祥子から目を逸らして俯いて泣いていたのにね…
いや、私には祥子への気持ちや自分の考えを云えられていたっけ。
何故祐巳ちゃんは、私にはそれが出来たんだろうか。

「ホラ…このお手紙にだって聖さまに似合うって、そう思ったって……」

一生懸命に云いながら、祐巳ちゃんの表情が歪んでいく。
その顔を見ながら、私はどうして祐巳ちゃんがそんなに必死に訴えてくるのか解らなくて不思議に思った。
そして…そんな一生懸命な祐巳ちゃんに心の中が冷えていく。
もちろん祐巳ちゃんにではなくて、そういう風に考えられない自分がそこまで冷え切った寂しい人間だったのかと思えて。
反面…『何も知らないくせに』と思う自分もいる。
堪えようとして、堪え切れなくて頬を濡らしていく祐巳ちゃんをぼんやりと見つめた。

「わ…ったしは…聖さまじゃないですからっ、何も…わかんないです…でも、私は…聖さまに少しでも喜んで…戴けたらって思いながら…選びます…それは聖さまのお母様もきっとおんなじだって…」
「……」

一生懸命な、言葉。
一生懸命な、表情。

どうしてそんなに確信持って云えるのか。
何も知らないのに。
何も知らないくせに。
……それなのに、この気持ちは……何?

祐巳ちゃんはグイッと手の甲で涙を拭ってから小さく息を吐くと、また私をまっすぐに見た。

「それに…前にも聖さまは云いましたけど…お百度参りするお母さんだって、確かに不気味かもしれませんけど…でもそうしなくちゃどうにもならないくらい心配で、居ても立っても居られなくてしてしまうのかもしれません」
「……」
「あったかいお夜食作ってくれるのもお母さんの愛情なら、お百度参りするのも愛情なんじゃないかなって…思うんです。たとえそれが空回り…自己満足なものだったとしても…誰かを傷つけてしまって後悔しちゃっても…そこには」
「……愛情…が、あるって云いたいの?」
「はい…」

愛情…?
そうなんだろうか…


あの、山百合会のバレンタイン企画の時を思い返す。
祐巳ちゃんは祥子たち…いや、祥子に気を使って突っ走って…すれ違った。
その行動は祐巳ちゃんなりの思いからだったはず。
でもそれは祥子に疑心を抱かせてしまった。
確かに、空回りだっただろうけれど…発端は祐巳ちゃんなりの祥子への思いからだったのは間違いなくて。

薔薇の館で、私は祐巳ちゃんに「君はごんぎつねか」と云った。
大学部合格を知らせようと薔薇の館入り口近くにいた私に気付かずに館に飛び込んで、二階に上り、扉の中に。
後を追うように二階に上って見てみれば…窓を開けて雑用をこなしている祐巳ちゃんがいた。
私はその祐巳ちゃんの姿を『ごんぎつね』に例えた。
…自分の悪戯のせいで男の母親が死んだと思い、影に隠れて食べ物を運んでいたごんぎつね。
けれどごんぎつねは、食べ物を持ってきた時、男に見つかり『悪戯ぎつね』と殺されてしまう。
殺された後、「食べ物を運んでいたのはおまえだったのか」とようやく気付かれる。
ごんぎつねなりの償いは、死んだ後に気付かれる。
確かにそれは哀れだと思った。
そして自己中心的な自己満足だとも思った。

あの頃と同じ時期、一般入試で大学部を受ける事を決めて動いていた私に母親は諸手を上げて喜んでいた。
そして私にこう云っていた。

『聖ちゃんなら大丈夫だと思うけれど、お母さんも聖ちゃんが無事に合格出来るように神様にお祈りしているわ』

あの時の祐巳ちゃんに云った『お百度参りより温かいお夜食』の言葉はそのまま私の気持ちだった。
合格発表を確認に行くその時まで、母親は神様に祈っていたようなものだったから。
あの時の私は、きっとごんぎつねと母親を祐巳ちゃんに重ねたのかもしれない。
あの母親と…なんて失礼極まりない。
だって、祐巳ちゃんの気持ちと母親のソレは似ても似つかないものだから。
まぁきっと…自分でも解らない内に嫉妬も混じらせていたんだろうけれど。

祥子に一生懸命な祐巳ちゃんに。
周りが見えなくなるほど、誰かに一生懸命になれる祐巳ちゃんに。

あの頃とさほど変わらず一生懸命な祐巳ちゃんは云う。
あの母親のソレだって愛情からのものだと。

確かに自己満足かもしれない…でもごんぎつねにはごんぎつねの『きもち』があっただろう。
ごんぎつねと同列に考えるのもどうかと思うけれど、祐巳ちゃんには祐巳ちゃんなりの『思い』があったように。

……あの母親にも…私への『気持ち』とか『思い』とか…そういうモノがあったっていう事なのか?

見えない部分…死角があるってことなんだろうか?
私には見えていなかった死角…もしくはわざわざ目を逸らして作っていた死角が?

まさか。
あの親に限って。
自分の思考に鼻で笑う。
…あの母親と祐巳ちゃんが云う『思い』は似ても似つかない代物なんだから。
私の実力ではなく、はなから神頼みするような母親とは。

でも、このままだといつまでもこの話は終わらない。
せっかく祐巳ちゃんが来てくれたのに、いつまでもこんな事に時間を取られるなんて、ごめんだ。

「…解った」
「え?」
「後から電話入れておく。心配してくれて、ありがとね」

素直には祐巳ちゃんの云い分を受け入れることは出来そうないけれど、全く無しにも出来ないなら…こちらから少しは近付いてみるしかないのかもしれない。

「聖…さま?」

祐巳ちゃんが、私を呼ぶ。
どうしたんだろう、何か様子が変だ。

「どうして…そんな…」

なんだ?

「そんな顔…するんですか…?」

そんなに、嫌なんですか…?

祐巳ちゃんが、淋しそうな顔で呟いた。




20060422
posted by 松島深冬 at 08:16| ☔| Comment(0) | マリア様がみてる SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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