2006年04月04日

心の中の死角・2

長々と続きがup出来ず…
やっと書き進められるようになったら妙に続いてしまって…いったんupします(苦笑)
小難しい思考に陥ってます聖さま。
早く本題(ホワイトデー)に行け私(泣)


では、ドウゾ。






どれくらい、時間が経ったんだろう。
短いような、長いような…自分では解らない。
ただ、早急に腕の中のものを開放しなければならないという気持ちと、いつまでもこのままでいられたら…と思う気持ちとの間で揺れていた。


「…せ…さま」

ささやくような声に呼ばれた気がして、ようやく『開放』を選び取った私は、そっと祐巳ちゃんから離れて「ごめんね」と呟いた。

…逃げてるんだって事は解ってる。
どうしていいか解らないから、困惑してしまったから、私は『祐巳ちゃん』に逃げた。
多分…気付かれてはいないだろう…だけどそれらを受け入れられない自分の狭量さと不甲斐無さと、逃げ場にしてしまった祐巳ちゃんへの申し訳なさに何とも言い難い苛立ちと痛みが胸に降りてくる。

「シワになっちゃうね」

私はコートの袖をさらりと撫でながら云った。

「聖さま…」

何か云いたげな祐巳ちゃんに、コートを脱ぎつつ背を向ける。
寝室へ向かう私に、またも「聖さま!」と祐巳ちゃんは声を掛けてくる。
振り返ると真剣な目が私を見ていた。

「…何?」
「あの…おうちにご連絡入れるのなら…私、席を外します」
「いいよ、そんな事しなくても」
「え…?でも…」
「いいんだよ。別に連絡なんか入れなくても。あの人たちはそんな事私に期待なんかしてないから」
「聖さま…」
「それに今の時間は多分家になんかいないから」

そう云って私は部屋に入り、クロゼットの扉を開く。

こんな時間に、あの家に誰かがいるはずはない。
いつの頃からか、学校から帰宅した私を迎えたのは静寂だったから。
それを妙に冷めたように受け入れていた自分。

思い出されたそれを払拭するように…そのネガティブな感情を白いスプリングコートと共に仕舞い込んで、少し乱暴にクロゼットの扉を閉めた。
溜息をひとつ落としてリビングに戻ると、何処か心配そうな目をしている祐巳ちゃんに軽く微笑んでから「ホントにいいんだよ」とパチンとウインクして見せる。

けれど…そんな何気ない言葉、何気ない行動にすら、どうしようもない気持ちになる。
仕舞い込んだはずのネガティブな感情が、クロゼットの扉の隙間から擦り抜けてきたのか。
それとも乱暴に閉めた扉から弾き出たのだろうか……あの母親を『素敵』と云ってくれた祐巳ちゃんに、申し訳ない気持ちで、いっぱいになる。

長い年月を掛けて作られてしまった私の中のあの人たちへの溝。
それは…簡単には埋められはしない溝で。
だからこんな風にされると、どうしていいか解らなくなる。
本当なら感謝を感じなければいけないのに、脳裏に浮かぶ言葉は冷めた言葉ばかりで。

……このままでは祐巳ちゃんもおかしく思うだろう。
実際、祐巳ちゃんがどこか気遣わし気に私を見ているのを感じる。
そんな目をさせてしまう事を申し訳なく感じる反面、そんな目をされる事に腹立たしさを感じてしまう。
…私はうまく笑えていないだろう。
なら、今の私は一体どんな顔をしているのだろう?
心配されるほどに情けない顔をしているんだろうか。



「…お茶、冷めちゃったね。入れ直しちゃおう」

祐巳ちゃんの顔から目を逸らし、精一杯の明るい声で云うとカップを手にキッチンへ向かった。
そして冷めてしまったお茶を捨てて暖かいお茶を入れる。
ソファに座っている祐巳ちゃんの前のテーブルにコトンとマグカップを置くと、私もその隣に腰を下ろした。

「ほんと、気にしなくていいから。それに…みんながみんな、祐巳ちゃんちみたいに『良いご家庭』じゃないんだよ」
「…え?」

良い家庭。
外面じゃなく、人の印象じゃなく。
お金持ちとかじゃなく。
じんわりと、滲み出るような暖かい雰囲気。
祐巳ちゃんや、祐麒のような子供が育つ家庭が『良い家庭』というんだろうと思う。

「聖さま…?」
「好き勝手やって、誰がどこにいるのかも解らない…そんな家だからさ。うちは」

外聞ばかり気にしているような、そんな冷めたもの。
…つまらない家。

すると、祐巳ちゃんの小さな声が聞こえた。

「…私は…」

それに聞こえないフリをしてクッキーに手を伸ばす。
何を祐巳ちゃんが云おうとしているのか解らない。
でも私は笑って「何?」と聞けずにクッキーの子袋をペリリと開くとポイと口に投げ入れた。

「聖さま…」

沈んだ声に視線だけを返す。
私の袖に伸ばしかけた手が力なく膝に置かれた。

「でも…聖さまのお母さまは聖さまの事を思っているんじゃ…だから…」
「お百度参りするようなお母さんより、あったかいお夜食作ってくれるお母さんの方が私はいいよ」

いつだっただろう…祐巳ちゃんに云った言葉を繰り返す。
祐巳ちゃんは覚えているんだろうか…この私の言葉を。

期待にはもちろん応えたい。
でも…期待するだけ期待して、それを押し付けられるのは辛く重い。
それよりも暖かい心で支えて欲しい…そんな事を親に望み考えてしまうのは罰当たりなんだろうか?

もちろん…期待してしまうのは、私も同じで。
その期待を裏切られたと思ってしまったから、こんな風に考えてしまうんだろうか。
何も望まなければ、あの親たちに対してこんな事を考えずに済んだんだろうか。
私の気持ちは、重荷だったんだろうか…あの親たちには。

目の前で、悲しげな目をしているこの子。
この子への、私の気持ちは重荷なんじゃないだろうか…?
そんな事まで考え始めてしまう自分はあまりに弱くて嫌になってくる。

今日は折角の祐巳ちゃんとの約束の日だと云うのに。
なのに、気分は完全に地を這ってしまっている。
そんな風な考えに囚われ始めている事を申し訳なく思う気持ちと、『どうして箱に気付かせるのが今日だったのか』という苛立つ気持ちを祐巳ちゃんに感じていた。
八つ当たりなんて、情けない。

白いコート。
ホワイトデー…白い日。
以前から『白』とは程遠い自分の気持ち。
そんな自分は高等部三年時に『白薔薇さま』などと呼ばれていて、未だにそう呼ぶ輩もいる。
ただお姉さまが『白薔薇』の名をもつ方だったと云うだけで、その敬称を形ばかりの選挙で引き継いだ自分がソレに似つかわしくない事があまりにあんまりで、笑えもしない。

だからと云って紅薔薇や黄薔薇が似合いだとも思えない。
蓉子のように何にでも真剣になれない。
江利子のように何かに興味を持とうとする事もない。

ナニかが、欠けている自分。
それがナニかも解らない。

「コートを送ってくれるお母様はお百度参りするお母さんとは違うと思います!」

ぎゅっ、と私の手を握ってきた祐巳ちゃんが、いつもとは考えられないくらいハッキリと怒りを含んだ声で云った。



20060404
posted by 松島深冬 at 02:57| 🌁| Comment(4) | マリア様がみてる SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お久しぶりです。
待っていました! 続き。
長いのはかえって嬉しいです。そして早くもこの続きが気になっています……。
アゲハ蝶表紙もUPされて、「うわあ〜っ」と、朝からテンション上がりました。
Posted by 広園鈴菜 at 2006年04月04日 07:30
お待たせしました!(苦笑)
続きも頑張りますよー
早くシリアスから脱出してラブラブさせてあげなければ…せっかくのホワイトデーなんですから(笑)

アゲハ蝶…皆に「聖さまは?」と聞かれます(苦笑)
祐巳ちゃんピンは珍しいんでしょうか、やはり…
Posted by 広園鈴菜さま:管理者松島 at 2006年04月05日 07:58
お久しぶりです!
このところ人疲れしていましたが、エネルギー回復しました!!
アゲハ蝶、表紙拝見してニヤけた自分はどうなんでしょう……聖も好きですが、祐巳単独珍しさもあり、かなりツボでした。
Posted by Mass at 2006年04月06日 21:14
お久しぶりですねー
年度変わっていろいろ忙しいのでしょうか?
体だけは大事に!

アゲハ表紙、Massさんに気に入って戴けたなら『よっしゃ!』って感じです(笑)
一応祐巳ちゃんに持たせた白薔薇で聖さま補完と(笑)
Posted by Massさま:管理者松島 at 2006年04月07日 11:32
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