2006年02月27日

シャイン

…遅くなりました。
そして長くなりました…
なんですかって感じです。
ここにそのまま置くのはしのびない(苦)ので…すいませんが下の『シャイン』をクリックしてお読み願います。

…なんか思っていた展開と変わってしまって「あれあれ〜?」って感じです。

そして、SSが書けない自分に気がつきました…いや、書けてないのは前々からなんですけど、最近特にそう思えるのです(苦笑)

これでバレンタイン話は終了。


自責の念と、どうしようもないほどの独占欲。





機械的に日々を過ごしていた。
そうする事でしか、動けなかったから。
何もする気にならない。
何も考えられない。
何度も何度も心に過ぎるのは…あの日自分が不躾に口にした言葉。
…もっと…そうもっと云い方があったはずなのに…と。
あんな切り捨てるみたいな云い方をされれば傷付かない訳がない。
誤解しない訳がない。

…自業自得。
苦く笑ってそう呟いた。

「傷付いたのは祐巳ちゃんで、私じゃないんだから」

だから私が淋しくなる必要はないし、つらくなる事もない。
あんな風に拒絶された祐巳ちゃんが被害者だ。
私の我が侭と、独占欲のせいで傷付けられてしまったんだから。

「大切にしたいのに、私はいつも傷付けてしまうんだな…」

大切にしたい人を。
守りたい人を。

初めて人を愛した時には、周りが見えなくなりすぎた…私の創造した型にはめ込もうとしてしまった。
白く美しい天使…そう思い込み、彼女の望みすら気付けずにただ自分の想いだけを押し付けようと。
そして…彼女は私の前から姿を消した。
だから。
二度と繰り返したくない、二の舞はごめんだ…その思いから今一番大切な人を傷付けてしまう自分が滑稽だった。
傷付けたくないのに、あの子を傷付けている自分が。


ぱり、という音を立ててセロテープを丁寧にはがして、過剰な程に豪奢な包装を開くとブラウンに金の箔押しでデザインされた箱が現れる。
中身はトリュフ。
甘さ控えめのビターではなく、甘いものが好きなあの子に合わせた甘いミルクチョコ。
それをひとつ、つまみあげてポイと口に入れる。
途端に甘い香りが広がった。
そして柔らかく溶けて舌に絡まり、消えていく。

「……あま」

そう思わずこぼれ落ちた言葉に、フッと苦く笑った。
何を当たり前の事を云っているんだろう…と。
甘党のあの子の笑顔が見たくて買ったチョコレートなんだから、甘くて当然なのに。



    †



……来客を告げるインターホンの音で目が覚めた。
いつの間に寝ていたのか…ソファに完全に横たえていた体を起こした。

口の中がチョコレートのせいで妙に甘い。
実を云うと、これが苦手だ。
後に残る砂糖の甘み…
コーヒーや紅茶に砂糖を入れるのもあまり好まない。
ブラックやストレートでは感じない後味が舌にいつまでも居座る感じが好かなくて。
だからって甘いものが嫌い…という訳ではないけれど。

インターホンが急かすように鳴った。
そうだった、誰か来ていたんだっけ。
その音に起こされた事を失念していた。

「はいはい…今出ますって…」

のろのろと立ち上がりインターホンに出る。

「はい」
『佐藤さーん、コンドル宅急便でーす!』

小包をお届けにあがりましたぁ、と元気な声が聞こえてきた。

今の沈んだ気持ちにその元気の良さは、一瞬しか関わらない見知らぬ他人と云えどもちょっとキツイ。
だから機械的な対応になってしまう。
エントランスの扉を開き、玄関のドアを開き。
そして受領枠にサインをして、抱える程の大きさの…けれど見た目に比べるとずっと軽い箱を受け取った。
送り主は…母親。
どうせまた気を利かせて何かを送ってきたのだろう事は想像に難くない。
家に寄り付かない娘を親は親なりに心配してくれているだろう事は解る。
でも…正直、八つ当たりだと解っているけれど、今のこの地を這っている気分の時にはただ迷惑でしかなかった。
開く気にもなれず床に置いたままの箱を見ながら溜息をついた時。

「…え?」

エントランスではなく、玄関から来客を知らせるチャイムが鳴った。

一体誰が?
…管理人の目を盗んで配達員と一緒にセールスでも入り込んだのだろうか?

いぶかしく思いながらもドアスコープから覗いてみようと玄関に近付いた時、ふとある予感みたいなものが過ぎった。

……まさか?

私はスコープから覗くより先に鍵を開いて扉を開けた。

「ぎゃっ!」

急に開いた扉に驚いて身を退いている姿が目に飛び込んできた。

「祐巳ちゃん…」

…やっぱり。




宅急便の配達員に開いたドアが閉まる前に、管理人がちょうど来た祐巳ちゃんを通してくれたらしい。
セキュリティ万全を歌い文句にしているマンションで、それを許された祐巳ちゃんに内心驚きつつも、『祐巳ちゃんだからか』と妙に納得してしまう自分もいるのに気付く。

……でも。
どうして祐巳ちゃんがここにいるのだろう。
あんな風に傷付けてしまったのに。

「今日は…どうしたの?」
「あの…いきなりすいません…何か御用とか…?」
「そんなのはないよ…いやそれはどうでもいい、だいぶ明るくなって来てるとはいえ、もう夕方だってのに…っ」

そこまで云って、動き出したエレベーターに気付いて「とにかく、入って」と祐巳ちゃんを招き入れた。
誰かに見られて、制服姿の祐巳ちゃんを好奇の目にさらすのが嫌だった。
何せ、リリアンの制服は目立つから。


いつものように祐巳ちゃんをソファへ向かわせて、私はキッチンへと向かった。
飲み物を用意しながら、背中に祐巳ちゃんがコートを脱ぐ雰囲気を感じてなんとなく、落ち着かなさを感じてしまう。
この落ち着かない気持ちは、多分いきなり祐巳ちゃんが訪ねてきたから…何故訪ねてきたのか解らないからだろうと自己分析してみた。
…そうに違いない…そう、多分。
気を落ち着かせようと軽く深呼吸をする、そんな自分を苦笑する。

…何から目を反らして自分に云い聞かせているんだろう…私は。



「はい、どうぞ。インスタントで申し訳ないんだけど…」

そう云いながらマグカップをソファに座る祐巳ちゃんの前に置いた。
もちろん、砂糖とミルクは多め。
祐巳ちゃんの周囲を包んでいた空気の冷たさで外が寒い事が容易に想像出来た。
だから手っ取り早く温かなものを飲ませてあげたくて、時間の掛かるサイフォンではなくインスタントを選んだ。
でも「有難う御座居ます」と云った祐巳ちゃんの表情はさっきよりも固く俯いてしまっている。

どうしたんだろうとブラックコーヒーが入ったマグカップをテーブルに置いてソファに腰を下ろそうとして…甘い匂いに気付いた。
テーブルの上の、一目でそうと解るバレンタイン仕様の包みとチョコレート。
この状況で考えるのは、私が誰かからもらったものと思う事だろう。
祐巳ちゃんが逢いたいと云ってくれたのを断って、誰かからのチョコレートは受け取ったと。

…何故だろう…高等部三年の、バレンタインの日の帰り道の志摩子を思い出した。
静からのチョコレートを一緒に食べようと取り出そうとした私を『少し鈍感なところがある』といさめた時の志摩子を。
フッと微笑んで私はテーブルの上のチョコレートの入った箱を祐巳ちゃんの目の前に滑らせた。

「これもどうぞ」

…意地が悪いなと、自分でも思う。
案の定、祐巳ちゃんの表情は更に固くなる。

「いえ…聖さまが戴いたものを、私が戴く訳には」

可哀相なほど、頑なに云う祐巳ちゃんに、私はチョコレートをひとつ摘み上げて差し出しながら云う。

「これは祐巳ちゃんにって買ったものだから、戴いてもらえた方が私としては嬉しいんだけどな」
「…え?」

きょとん、とした顔が私を見た。
その顔に苦く微笑みながら私は摘み上げたチョコレートを祐巳ちゃんの口元にかざす。

「それとも…もうダメかな。バレンタイン関係なくても祐巳ちゃんに食べてほしかったんだけど」

そう。
バレンタインとか、そういう事に踊らされるんじゃなく、ただ祐巳ちゃんの笑顔が見たかった。
甘いものが好きだから、きっと喜んでくれる…そう思いながら購入した。

「聖さまが…私に…ですか?」
「うん」

祐巳ちゃんが驚いたように私と私の差し出したチョコレートを交互に見ている。
その様子を静かに見つめていながら…目を反らしたら負けだ…なんて考える私はなんて負けず嫌いなんだろう。

「…でも」

すっと視線を私から外すと困惑気に呟く。
信じられなくて当然だろう。
でも信じてもらわなくては私も困る。

「私が買ったって信じられない?なんならレシートとか見せようか?」

それくらいで信じてもらえるのなら、お安い御用だ。

そう云って立ち上がろうとした私を、祐巳ちゃんが驚いたように見た。

「あ、あのっ」
「食べて、くれるの?」

私のシャツの腕を掴んで、まるで引き止めるような祐巳ちゃんに、チョコレートを差し出した。

実は…引っ込みがつかない。
ひとつ、つまんで差し出した。
今更下ろして箱に戻すのも変だ。
だから、私の指から食べてもらわないと…先に進めない。

それが祐巳ちゃんにも伝わったのか…すっと頬を染めると目を伏せて一瞬の躊躇の後…私の指からチョコレートを食べた。
前に、屋台のたこ焼きを二人で食べた事があったけれど、その時は爪楊枝でたこ焼きを刺して『あーん』した。
でも今回は直に指から。
指に柔らかな唇が触れて、まるで電気が流れたみたいに心臓が跳ね上がった。

…電気ショックってこんな感じだったりして。

恥ずかしそうに頬を染めたまま、もぐもぐと口を動かしていた祐巳ちゃんに、ちょっとだけ笑顔が浮かんだ。

「…おいしい…」

その呟きに、私には甘すぎでも、やっぱり祐巳ちゃんの口には合ったようだと内心ホッとした。

「そ?よかった」

そう云いながら笑みが浮かぶのが解る。
…なんだか、久しぶりに苦い笑いや自虐的ではない笑みが浮かんだ気がする。
それがなんだかくすぐったいなと思いながら指に付いていたココアの粉をぺろりと舐めた。
それを見ていた祐巳ちゃんがまた目を伏せる。
さっきとは違って、ちょっと恥ずかしそうに。
そんな祐巳ちゃんを見て『間接キス』なんて言葉が脳裏に浮かんで、なんとなく気恥ずかしい気持ちになってしまって、それをごまかすように私は「ごめんね」と呟いた。

「え?」

本当なら…こんな風になんか出来るはずないのに。

「十三日…電話で」

不思議そうに私を見た祐巳ちゃんが『電話』の言葉で表情をほんの少し揺らした。
あの日、私は不用意に傷付けた。
私の我侭と、独占欲から。
なのに今日、こうしてここに来てくれたのは…どうしてなんだろう。

「ごめんね…でも祐巳ちゃんと逢いたくないとか、そんな事じゃなかったのは信じてよ」
「私こそ…聖さまに謝ろうと思って…」

謝る?

「祐巳ちゃんが謝らなきゃいけない事なんて」
「…いえ…私、聖さまの気持ち、気付けなかった…気付けなくて、聖さまを独りにしてしまって…ごめんなさい」
「祐巳、ちゃん?」
「でも私も…ただチョコレートだけ貰って戴こうなんて思ってなかったんです…今は聖さま、春休みだから学校ではなかなか会えないですし…だから…少しでも逢いたくて…」

あ、れ?
なんだろう…胸が、痛い。

「そ、そりゃチョコレートも貰って欲しかったですよ?でも、正直云ってチョコは聖さまに逢うために必要だって思ってしまって…あ、いえ、そうじゃなくて…えっと…」

しどろもどろの祐巳ちゃんを、私はいつものようにからかう事も落ち着かせる事も出来なかった。
ああ…祐巳ちゃんは解ってくれてたんだ。
私が、祐巳ちゃんに逢いたい気持ちが。
祐巳ちゃんも私に逢いたいと思っていてくれた。

何が解ってほしい、だ。
解ってなかったのは、私じゃないか。
山百合会の人間として、忙しいバレンタインの日に私に逢いたいと思ってくれたのに。

…莫迦だ。

「聖…さま?」

何も云えなくなっている私に、祐巳ちゃんが気付いた。
もう、いい。
何かを云わなくても。
言葉にする事だけが大事な事じゃない。
想ってくれている。
想っている。

言葉にしなくても…伝えたい。
この気持ち。

『有難う』を。

祐巳ちゃんの肩に、とん、とおでこを乗せた。

『有難う』
本当に。

『有難う』
私は、祐巳ちゃんの事が好きだよ。
とても…とても。
胸の中に溢れる光が、痛い。

「…聖さま?」

おずおずと、優しく髪に触れてくる祐巳ちゃんの手に泣きたくなるほどの暖かさを感じた。

「あ」

そうだ、と小さく呟くと、祐巳ちゃんはきゅっ、と私の肩を抱きしめるように腕を回してこう云った。

「チョコ、有難う御座います…聖さまはバレンタインじゃないとおっしゃいましたけど…お返し、ホワイトデイにさせて下さいね?」
「…お返しなんて」
「聖さまは、私の大切な人だから…ホワイトデイは大切な人にお返しをする日なんですから」

だから…その日は空けておいて下さいね?


私は祐巳ちゃんとチョコレートの甘い香りに包まれながら、「もちろん」と頷いた。




20060227
posted by 松島深冬 at 02:10| ☁| Comment(4) | マリア様がみてる SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お久しぶりです。銭麻呂です。
バレンタインSSまとめて一気に読ませて頂きました。
甘め、というよりはシリアスよりでしたが、結構気持ちわかりますね…どちらの気持ちも(苦笑)
疑ったりとか、試したりとか、アホらしいとは思うし、傷つけるのも解ってるのに、どうしても相手に甘えてしまったりするんですよね…。
ホワイトデーはどんな話になるのか…今から楽しみです!!
Posted by 銭麻呂 at 2006年02月27日 12:30
バレンタインSS徐々に読み進めてました・・・特に乃梨子の聖への感想というか批評が非常に好きでした。周囲から見て『何でそんなこと』と思うことはありますよね。
それにしても甘いとわかりつつ、祐巳用チョコを口に入れる聖に拍手。
以下、私見ですが。
言葉のすれ違いが起きる確立、イベント時に高くなるのは気のせいでしょうか。
Posted by Mass at 2006年02月27日 15:04
甘いの書きたかったんです…ほんとは甘いのを書きたかったんですよー(泣)
ええ、ほんと、傷つけてしまうと…泣かせてしまうかもと思いながらも云ってしまう事、あとから傷つけたと気付く事って多々あるんじゃないでしょうか。
もちろん免罪符にするつもりはないですが、好きだからこそってのはあるかなぁ…と(苦笑)
幸せに甘いだけが『好き』ではないですからね。
Posted by 銭麻呂さま:管理者松島 at 2006年02月28日 09:23
乃梨子ちゃんってものすごく冷静にまわりを観察していそうですよね(笑)
多分聖さまと祐巳ちゃんの事も見ていてもどかしく思っていそうです。

言葉のすれちがい率…
やはりイベントを甘々に過ごさせてあげられない私の責任ですね(というか力不足?/苦笑)
イベントってやっぱりいろいろ見える事ってあるんじゃないかな?なんて思ってしまうんです…もしくは逆に見えなくなる事とかも。
Posted by Massさま:管理者松島 at 2006年02月28日 09:30
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